01 博士後期課程で取り組んだ研究は?
放射線計測の精度向上でより安全な医療に貢献したい
医療において放射線を適切に利用するために、放射線検出器を用いた線量測定・管理に関する研究を行いました。現在メーカからさまざまな測定機器や解析手法が提供されていますが、必ずしも医療で必要な実用性や測定精度が発揮されているとは限りません。放射線計測の研究を進める中で、商用の計測機器の安定性が悪いという弱点を見つけ、研究を進める上で大きな壁が立ちふさがりました。試行錯誤のなかで、あらかじめ放射線を照射し、部分的に信号を弱める手法を確立し、既製品の安定性を高めることに成功しました。特許や論文の大きな成果につながり、逆境にこそチャンスが生まれ、成果が開花することを体験しました。本技術が普及することで、放射線を高精度に評価・管理できる基盤を形成でき、より安全な医療を実現できると期待しています。
02 博士進学を決めたきっかけと研究で感じたやりがいは?
研究の楽しさを味わい、議論を尽くし得たやりがい
私は、診療放射線技師の養成学科の出身で、同級生の多くは診療放射線技師として働いています。学部生の時に将来プランを考えたところ、当時の座学の成績が良くなかったこともあり、このままでは社会(病院)で活躍できないと思いました。一方で、あるテーマに対して工夫して行動する「実習」の講義は楽しく、やりがいを感じました。卒研を通じて研究の面白さに魅了され、研究面で活躍したいという思いが次第に大きくなっていき、大学院への進学を決意しました。博士後期課程への進学では、家族を説得し理解してもらう必要がありました。学振DC1およびDC2に挑戦するも採択されずに途方に暮れていましたが、「次世代精鋭人材創発プロジェクト」に選抜され、研究費や生活費を確保できたことは大きな自信にもつながり、家族からの理解も少しずつ得られました。
私は、博士進学時から茨城県にある研究所に所属し、研究を進めました。研究室の指導教員に加え、上司の研究員も熱心に論文指導をしてくれましたが、皆の意見は必ずしも一致せずに苦労しました。論文執筆においては、皆の主張を整理し一つの結論を導くために、英単語一つの使い方でさえもすべて調べ上げて、原稿を完全な状態にする必要があり、論文を書き始めて採択されるまでに2年ほど有しました。当時は非常に辛かったのですが、様々な研究者の考え方や人生観を学べたことは貴重な財産となっています。また、HaKaSe+選抜学生同士の異分野交流会で他の研究分野の人に英語でプレゼンしたことは、緊張感を持ちながら自分の意見を述べる練習になりました。同世代の仲間が多くの研究成果を出し、活躍している姿を目の当たりにし、とても鼓舞されたのを覚えています。
03 今後のキャリアと後輩へのメッセージ
研究遂行力を高めることが、いずれ社会で活躍する武器に。
兵庫県の私立大学の助教として、新しいキャリアをスタートしました。所属する学科は新設学科であるため、建物や実習装置が新しい反面、研究環境がほとんど整備されていません。まずは魅力的なテーマを創造して研究費を獲得し、継続的に論文を投稿できる研究環境を整備していきたいと思います。長期的には、お世話になった金沢大学とコラボレーションして世界トップレベルの研究チームをつくり、医療を牽引できる研究テーマに挑戦したいです。
博士課程では、ぜひ研究に専念してほしいと思います。博士課程に進学すると、「社会に出るのが数年遅れる。就職先はあるのか?」といった不安要素から、研究以外にもマルチに活動することを考えるかもしれません。私も将来について多くの不安を感じました。しかし、周りの先輩方をみると、多くの研究成果を出した人は就職活動も適切にパスし、社会に出てからも主体的に活躍しています。おそらく研究活動で得た大局観から、タスクの中での重要なポイントを瞬時に理解し、全体のバランスを考えて突き進むことができるからだと思います。多くの論文を書き、指導教員や査読者からの厳しい指摘を受けて、物事を俯瞰的に捉える力を育んでもらいたいです。