Ha Ka Se+ STORIES 先輩博士の声

STORY 07
基礎研究から応用研究へ
半導体研究開発を牽引する
存在を目指して
柴田 海輝
SHIBATA Kaiki
大学フェローシップ創設事業
次世代精鋭人材創発プロジェクト
自然科学研究科 数物科学専攻
2023年度修了

01 博士後期課程で取り組んだ研究

物理学を究め、実社会への応用可能性を実感

学士課程で本格的に物理学を学んで興味を持ち、物理学を究めたいという思いから大学院に進学しました。研究室に配属され、博士後期課程の先輩方が充実した研究生活を送っている姿を目にし、博士進学を決意しました。
博士後期課程では物理学分野の一つである物性理論の研究に取り組みました。物理学は、自然科学の根源的な仕組みを解き明かすことができる分野であると感じています。物理学を大別すると、研究対象では「物性」「素粒子」に、研究手法では「理論」「実験」に分けられます。私は、ナノメートルスケールの固体物質を研究対象として、極微の世界である量子力学の世界で起きる現象をシミュレーションにより解明することに挑戦しました。博士研究で取り組んだのは、磁性体の熱電効果に関する理論研究です。熱電効果は温度勾配があると電位差が生じる現象で、排熱から電気を生み出す実用的な応用が期待できます。私は基礎的な理論の考察を行い、熱電効果という現象の根源に迫ろうとしました。

02 博士後期課程で得た経験と修了後の進路、そしてキャリアの展望は?

挑み続ける粘り強さを糧に半導体研究開発をリードしたい

博士後期課程修了後の現在、半導体メーカーで研究開発を担っています。パソコンやスマートフォンなどに用いられる電子デバイスの高性能化を目指し、電子状態の観点からシミュレーションによる解析を行っています。博士後期課程で取り組んだ物性物理学の知見やシミュレーション技術を活かせており、大きなやりがいを感じています。
私は、博士後期課程での研究を経て、取り組んでいることが順調に進んでいるときもそうでないときも取り組み続ける粘り強さを培うことができたと感じています。実際、研究が思うように進まない時期もありましたが、それでも物理学が好きで研究活動を続けた結果、博士後期課程を修了することができました。これから長く仕事をしていく中でも、課題に直面することも多いと思いますが、成果がすぐに現れなくても継続することが大切だと考え、仕事に向き合えるようになっています。
将来的には半導体研究開発を牽引していく存在になることを目指しています。今勤めている会社は、研究を大切にする雰囲気があります。学生時代は基礎研究でしたが、現在は応用研究を進めているため、半導体デバイスの知見を深化させていきたいと考えています。将来、研究開発を率いていく立場に就いた際には、共同研究や学会発表などを積極的に行い、研究の活性化を担っていきたいです。

03 博士進学してよかったことと後輩へのメッセージ

「役に立たない」研究が数百年後の未来を支える可能性を秘める

大学・大学院生活の9年間もの間、興味のある物理学を学び、関わることができたのは貴重な経験でした。特に博士後期課程の3年間は研究成果を基に学会発表や論文発表で成果を発信できました。普段関わりのない研究者とも議論を交わすことができたのは非常に有意義でした。修了後の今でも当時の発表論文に対して意見をもらうことがあり、博士後期課程で研究に取り組んだからこそ得られたものと実感しています。
後輩のみなさんには「役に立たない」研究をしてほしいと思っています。「役に立つ」研究とは、短期的に今を生きる人々の利益につながるような研究と捉えられがちですが、研究は今を生きる人々だけのものでしょうか。1800年代の科学者であるファラデーは、磁束の変化によって導体に電流が流れるという電磁誘導の法則を発見しました。この電磁誘導の法則は発電の原理にもなっています。すなわち、100年以上前の研究が今の私たちの生活を支えています。博士人材を目指すみなさんには、いわゆる「役に立たない」研究も追究し、数百年後の人々にも役立つ研究成果を生み出してほしいと願っています。